幼い頃、私はモリケンと呼んでほしいと主張していました。
そう、モリケンとは、「森の賢者」(フクロウの称)の略。
これもフクロウを愛するが故でした。
しかし、「あいつは森脇健児のファンだ」という説がクラス中に流れ出しました。
そんな過去を持つ福田福朗です。
本日も稽古場へ。
最近、気付いたことがあります。
どうやら私は近くへ寄るとあまりモノが見えないようなのです。
近視というやつでしょうか。
遠くのものならハッキリと分かるのですが……。
遠くから、今日も見守る稽古場は段々とカタチになってきています。
そんな稽古場の中でも、やはり目をひくのは紅一点の高橋かおりさんです。
雄だらけのこの稽古場に、しっかりと華をそえてくれています。
その涼やかな声が、可憐に稽古場に響きます。
……あぁ。
求愛は動物の本能。
見ているだけでは物足りず、私は、高橋さんの側に寄っていきたくなりました。
あぁ。その肩にとまりたい。
私は、羽を広げました。
……あぁ。思い出しました。
近くだと高橋さんの顔が見えないのです。
遠くだとその美しい輪郭から、吐息の色までハッキリわかるのですが……。
そんな時、稽古場から、こんな台詞が聞こえます。
「フクロウ、飼ってみたい!」
ホ、ホントでありますか?
福朗とは、私のこと。
貴方さえ良ければ、すぐにでも。
私は飛び立って、高橋さんの側へ寄ろうとします。
……あぁ。しまった。まったく見えない。
遠くなら…大丈夫。見えます。美しい。
仕方ありません。
これが私の生まれもった習性なのですから。
今夜は一人、枕を濡らすことにいたします。
劇場で間近で、凛とした美しさを見ることができる方はとても幸福でしょう。
では、涙が渇いた頃に、また稽古場へ。
……ごきげんよう。
by時枝正俊
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