42歳の私は未だふらふらとしている。
落ち着きがなく、瞬間湯沸かし器の気味もある。
だからこの日記を彷徨亭日乗と呼び、東村山の
住まいを癇癪館と名付ける。
こういった人間である。

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■二月某日

No.261

 執筆。
癇癪館近くの銭湯でサウナに入る。呆れるほどに汗が吹き出る。
なんだよ、オリンピック全然日本だめじゃねえかよ。女子フィギアの日本の選手も可愛いけどそれだけね。今の日本を象徴している。いたいけで愛くるしくて迫力なし。女優もそうだけど、見ている者に、きれいだけど付き合うのは大変そうだなと思わせるぐらいのたまじゃないとだめね。女の幸福なんざ捨てて諦めているようなたまじゃなくっちゃ。人気と家庭の幸福を同時に持つことなど絶対できない。芸術、芸能の神は甘くはない。いいことがあれば必ずそれと同量のよくないことがやってくる。上手くこの生を生き抜くこつは、このよくないことをなるたけ溜めずに小出しにさせて向き合うことだ。
そして田中真紀子、鈴木宗男、国会参考人招致の報道。真紀子の勝利なのだろうか。株が上がったのだろうか。しかし、やはりこの人はリーダーには向いていないように思う。終日鈴木宗男の物真似に明け暮れる。ぐったり疲れる。
■二月某日

No.262

 引き続き、起きてすぐに鈴木宗男の物真似をしながら朝食を食べる。
執筆。
送られて届いたウォルター・ディビスのCDなどを聞き、「暗黒街の顔役」を見る。
■二月某日

No.263

 執筆。
パゾリーニの「大きな鳥小さな鳥」を見る。完全にチャップリンへのオマージュである。
ところで本当にソルトレイクオリンピックって最低だな。日本がそれなりにメダルとっていれば面白かったのにといった問題ではない、要するに開催国が戦争中の国であるための様々な弊害が露骨だということだ。またアメリカは世界中に嫌われたな。
■二月某日

No.264

 パルコで「OUT」見る。二時間四十分、休憩なし。長すぎる。鈴木裕美は才能があるのだからもっと見せ方のこつ、エンタテーメントの劇言語を学ばなければ。
■二月某日

No.265

 現代能「ベルナルダ・アルバの家」を見る。二時間。長すぎる。
観劇後、横浜五番街ホルモン道場で大いに肉食い、生にごり酒などを飲む。道場破りを目論むも適わず。酔っ払って東急線で渋谷へ。
■二月某日

No.266

 坪内逍遥の住居であった熱海の双柿舎へ。行きの電車でターザン山本の新著「プロレスvs格闘技カリスマ大戦争」を読む。私としては久しぶりにターザンの文章を読むのだが、この人はさすがである。週刊プロレスを更迭されてから色々辛酸も嘗めていると想像するが、思考の強靭さはまったく衰えておらず、さらに凄みが増している。苦労した者にしか書けないような文章が散りばめられている。ミスター高橋のいわゆる暴露本にも正面切って向き合い反論している。その論破の切り口がまた素晴らしい。ミスター高橋の本と同時にこれを合わせて読めば、ほぼ今のプロレスの状況が理解できるだろう。
とにかく今の新日本プロレスのつまらなさは主役脇役の役割分担を機会均等平等のもとに放棄し、誰をも主役級にしたことによる。小劇場のつまらなさと同じである。このことによって主役の神々しさは消え、渋い脇役という珠玉の存在も消えてなくなったのである。
熱海の梅園ですでに盛りの終わった梅を眺めながらにごり酒を飲む。買って帰る。にごり酒がマイブームである。
温泉に入り、時代に取り残された観光地熱海の廃墟を散策し、新作の構想を練る。熱海という街のうらぶれたレトロ感に深く心を動かされる。私はやはり軽井沢より熱海だ。
■二月某日

No.267

 執筆。書いた百枚すべて破棄を決意。一から出直し。
同時に「ハムレットクローン」の英訳の書き直し。これでよし。散歩道に梅が満開。
■二月某日

No.268

 久しぶりに銀座に出てビールなどを飲む。熱海もいいけど銀座もいいでよ。当たり前か。それにしても当分熱海への思いが残る予感。
たらたらと歩く。そういえば昔銀座のホステスとカラオケで「春よ来い」を歌い、妙にキーが高くて大顰蹙を買ったことなど思い出す。でもホステスといっても安いところよ。
■二月某日

No.269

 文学座アトリエへ。岸田国士の芝居三本見る。面白い。古さをまったく感じさせないなどと思わず凡庸なことを呟きそうになる。信濃町で飲む。しかしこうした飲み会にも飽きてきた。飲み会って飽きるものだ。
■三月一日

No.270

 西新宿で司法書士氏と打ち合わせ。
青山一丁目、マッチの事務所で打ち合わせ。
小竹向原、サイスタジオで吉田さんと打ち合わせがてら食事、ワインをいただく。
帰路、昼間暖かかったのが冷えていて往生する。
体が冷えたせいか、深夜体中の毒素が一斉に放出されるような症状に見舞われる。なんとも忙しい一日である。
■三月某日

No.271

 稲垣吾郎が主演で佃煮屋の息子が韓国人の婚約者を連れてくるドラマをつい見てしまう。まあ、いずれにせよ浅い結末ですな。せめて永井愛さんの戯曲ぐらいの適度な辛辣さが欲しいところ。
その後K-1見る。ベルナルドvsセフォー。近来まれに見る充実した打ち合い。興奮して釘付けになる。マーク・ハントvsミルコ・クロコップ戦も実に面白かった。奥歯のかぶせ物が取れる。
■三月某日

No.272

 そういうわけで新宿に行くついでに歯科医に行く。煙草のヤニなども除去してもらう。
刻々と日々が更新されていく思いがする。
■三月某日

No.273

 渋谷で打ち合わせ。
三茶で打ち合わせ。帰り、tsutayaでウェイン・ショーターとコルトレーンのCD買う。
執筆したいが、今書くとまた中断して中途半端になるのではという恐れを感じる。
鈴木宗男の物真似に飽きる。
■三月某日

No.274

 新作のキャスティングが次々と決定されていく。
代々木で打ち合わせ。
新宿プチモンドで打ち合わせ。なぜか引き続いてコルトレーン買う。「アセッション」そしてマルの「レフト・アローン」すぐに路上にてウォークマンで「アセッション」を聞き、痺れる。すごい。
劇団の総会。Tfactoryの旗揚げを宣言。去年の暮れより具体的な準備を始めていたものだった。劇団の中堅にはすでに言っていたことであり、ここで劇団は新たな節目を迎えることになる。
新たな船出とも言える。だらだらと同じ体制で続けることなどまっぴらである。さてこの体制吉と出るか凶と出るか。反発して退団する者も出るだろう。それはそれで仕方のないことだ。ぬくぬく続けるよりはいい。
■三月十日

No.275

 20時半、成田よりカンタス22便にてシドニー経由メルボルンへ。
今回はメルボルンのアジアリンクと日本領事館が主催するイメージ・オブ・ジャパンに招待されてのもの。
機内で八代静一の戯曲などを読む。修学旅行の高校生、卒業旅行らしきガキどもで満席である。
八時間半後、シドニー着。一時間半ほど空港に留まる。
■三月十一日

No.276

 午前10時40分。メルボルン到着。領事館の迎えの方と合流。ホテルグランドハイアットへ。南半球の当地はちょうど秋口の時期に当たる。二時間眠る。
去年滞在したのでほぼ勝手知った市内を散歩。
19時。総領事公邸で夕食会。ピーター、劇作家のジョン・ロメリル、ジョアンナ・マリースミス、NEXT WAVE FESTIVALのディレクター、ディビット・ヤング、アジアリンクの大物ガントナー夫妻など総勢15名でわいわいがやがやと演劇から田中真紀子問題まで話題は広がり、なんと23時まで。
最後はリキュールとエスプレッソをがぶがぶ飲む。
ホテルに戻り、免税で買ったグレンフィディッシュを飲み、寝る。
■三月十二日

No.277

 9時起床。10時、通訳の小池さんと打ち合わせ。やはり観衆相手の講演等となると内容は複雑であり、私の英語力では不足である。ここは格好つけず、正確さのほうを優先させたい。が、それも通訳者の技量にかかっている。
その後チャイナタウンで焼きそばを食べる。市内の中心に戻り、といっても小さな街だからものの五分とかからないのだが、お気に入りのカフェでぼんやり。
16時半、当地の最大新聞THE AGEの取材を受ける。ホテルの部屋でインタビューの後外で写真撮影。
17時半。メルボルン大学でパネルディスカッション「第三エロチカと日本現代演劇」。出席はピーターとラッセル・フュースター。因みにラッセルは私の「ロスト・バビロン」のオーストラリアでのオーストラリア人による英語上演を計画しているアデレードの演出家。通訳の小池さん、まことに優秀。
19時半。大学近くの日本食レストランでピーターの知り合い達も混じって夕食。オウム真理教、北野武の映画のことなど。
ホテルでグレンフィディッシュを飲む。
■三月十三日

No.278

 8時起床。
10時、ビクトリア・カレッジ・オブ・アートの大ホールで講演「自作を語る」。写真はそのときの模様。ビデオを流して色々しゃべる。こんな朝早く誰が聞きに来るのかと思っていたら満席でびっくり。一時間ほどの講演。感触すこぶる良し。気分が良くなる。
14時から3時間、メルボルン大学でワークショップ。「川村演劇のメソドロジー、゛ハムレットクローン゛」。大学生とプロの俳優の混成メンバーで25人。身体表現のための訓練と「ハムレットクローン」をテキストにしてのなんやかんや。                        
 
 18時、メルボルンの中華レストランでは一番という風評を持つらしいフラワー・ドラムへ。あわびのしゃぶしゃぶ、点心、牛と根菜など。おいしゅうございました。
その後バーでラッセルと「ロスト・バビロン」のことで打ち合わせ。
長い一日だった。
■三月十四日

No.279

 10時起床。
12時半、ロビン・アーチャーと会談。
18時半、メルボルン大学で講演「日本現代演劇の変遷」。新劇から60年代、そして今までのことについて語る。好き嫌いは別にして子供にもわかるように話す。こういうことに関してはとことんフェアでいこうという私の姿勢である。自分の宣伝ばかりしていてはいけない。すぐに自他の領域を考え、自分の領域ではないものは無視を決め込むそこいらの演劇評論家などより、よっぽどフェアだという自信はある。質問多数。興味を持ってくれたようでまことにうれしい。
講演後、世界最大のカジノと謳うクラウンのなかのイタメシヤでオイスター、ラム、ほうれん草などを食べ、グラッパで締める。
カジノのスロットマシーンに熱中する。6ドル儲かる。ホテルに戻り、グレンフィディッシュを飲み、考え事をする。
■三月十五日

No.280

 8時起床。9時半、ビクトリア・アーツ・センターの劇場を見学。
10時、クラウンへ。またスロットマシーン。負ける。飽きてクラウンのなかの映画館でリドリー・スコットの戦争映画「Black Hawk Down」を見る。サム・シェパードがおじいさんになっているのでびっくり。最初わからなかった。戦闘場面は面白い。でも普通の映画。リドリー・スコットって普通の人ね。
見終わってワンタンメンを食べる。
ホテルに戻り、日本で頼まれていた原稿を書き終える。
FAXで送信されてきた五月公演のチラシのデザインをチェック。
カフェへ。八代静一を読み終える。サンドウィッチをビールで流し込むと急激に眠くなり、ホテルで仮眠。
20時。プレイボックスシアターで「Stolen」を見る。

No.281〜300 バックナンバー

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