彷徨とは精神の自由を表す。

だが、そんなものが可能かどうかはわからない。

ただの散歩であってもかまわない。

目的のない散歩。

癇癪館は遊静舘に改名する。

癇癪は無駄である。

やめた。静かに遊ぶ。

そういった男である。

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■一月某日 No.1191
三百人劇場で本番の最中のルー氏、稽古に参加。

早くも静かに舞台が立ち上がっていく気配に興奮する。

キャスティングの正解を確信するに至る。

深夜京都入り。

■一月某日 No.1192
授業を終えて東京に帰り、稽古。

稽古場のベニサンは寒い。みんなホカロンを抱えつつ励む。

■一月某日 No.1193
休みの日。

絵を完成させ、一日中劇のことをあーでもないこーでもないと考えつつ。

■一月某日 No.1194
稽古場はパネルが建てられ、寒さが和らいでいる。

世間は三連休で電車は普段と違う種類の乗客で混みあっており、気分が悪い。

■一月某日 No.1195
稽古。わが東京スポーツがなぜか新年早々、緊急リポート『韓流に押される巨大劇団』と称し、劇団四季の現在について五回の連載をした。要するに年間純利益27億円近くを上げるこの劇団が徐々に観客動員を減らしていき、失速させているという内容だ。韓流、マツケンなどに観客層の主流であるオバサン達を取られている、輸入ものミュージカルが本場と比較されるケースが多くなってきたこと、入場料が高すぎる、浅利慶太の政界での神通力の衰えなどをその理由に挙げている。

これだから東スポは侮れない。こういう記事を大新聞が載せられるだろうか。

それにしてもなぜこの時期に四季がここでターゲットにされたのだろうか、恐らくよほど恨みのある者が持ち込み企画したと想像できるが、こうした記事が載ること自体が四季の失速を意味しているといえる。日本のジャーナリズムは人や物が弱体になったと勘付くや叩き始めるのが常だから。

それにしても記事に出てくるベテランの演劇評論家というのは誰なのだろう。多分名前を聞けば知っている人で、なんだアイツがいってることかってことになるのだろう、本人もそれを予想して箔をつけるために匿名にしているのではなかろうか。名前を伏せているとなんかインサイダーの告発みたいで変な迫力を演出できる。

■一月某日 No.1196
稽古。

稽古後の夜、たまたまテレビで大相撲ダイジェストを見て、はまる。今や不人気の極みの大相撲、今おもしろいですよ。なにがいいかって結局土俵の内外を汚していった藤島勢がすっきりいないのと、外国人力士の台頭だ。すごいよ、横綱の朝青龍をはじめ幕内に白鵬、旭鷲山、時天空、安馬、朝赤龍、旭天鵬とモンゴリアンが都合七名、ブルガリア人の琴欧州なんか絶妙な四股名だし、ロシア人の露鵬、グルジア人の黒海とヨーロッパ勢の四股名はセンスがいい!

相撲もこの人たちが頑張っていておもしろい! 真剣にやってるよ! 相撲もつらい職業だから3Kものみたいに今に外国人だけになるのではないか。

ついでに演劇のスタッフなども近年若者になりてが減っている。ここもやる気と根性のある外国人が多数関わればおもしろい。ここから日本の演劇が変革されていったりして。

■一月某日 No.1197
稽古、快調。

夜、風花に行くと扉の外に花束などがあり、扉も開いていて中が満席なので開店記念かなんかかと思ったら、今日は芥川・直木賞の発表で、直木賞受賞の角田光代さんのお祝いなのだった。せっかく来たのだからと中に入ると、いろいろ編集者から声をかけられ、席を空けてもらう。芥川賞は阿部氏と聞く。

坪内さんがやってきて、耳元でささやいて立ち去る。

角田さんがやってきて乾杯が始まる。私は初対面で握手をして、おめでとうございますと言う。店内は満杯で皆スタンディングでグラスを手にしていて、なんかいろいろな編集者に名刺をもらったりしてると、テレビ局とかもやってきて、なんだかわけがわからなくなる。

すると古井由吉氏とかも現れたので挨拶したりする。

なんだかなぜ自分がここにいるのかわけがわからないのだが、妙に愛想のいい自分がウイスキーを飲んでいる。

そういうわけで風花を出て風紋にいく。

坪内さんがいて、なんと小説新潮のE氏と数年ぶりで会う。

あと元群像の青年とen-taXiの壱岐氏、この人とは初めて会う。イタリアのコミュニストみたいな人だ。いろいろわいわい馬鹿話をして、こっちに流れてきて正解だった。あんな騒ぎになって常連客はどうなるんだ、大体あそこを二次会かなんかにするところが取り巻きのセンスがないとか風花の状況にそれぞれ文句を垂れる。

■一月某日 No.1198
稽古休みの日、雪降る中、大阪の記者会見に向かう。会場は舞台と同じ精華小劇場。

劇場は難波のど真ん中、実にいいロケーションだ。

オープニングの他の三劇団主宰者、そとばこまちの小原氏、トリコ・Aの山口さん、少年王者舘の天野氏と一緒で会見ではそれぞれの抱負やら解説やらを聞いたのだが、みんな面白そうだ。小堀さんともひさしぶりに会い、アフタートークの相手を南河内万歳一座の内藤君に頼みたいのだがと相談する。

会見を終え、近所でうどんといか焼きを食べて新大阪駅へ。

ああ、久々の大阪、本当にうれしい!

■一月某日 No.1199
稽古快調。

ところで部屋に来た女が冷蔵庫を開けて見慣れない缶ビールを目にして「女がいるのね」と飛び出そうとするところを、佐々木蔵之助が止めて抱きしめ、「キャンペーンなんだよっ!」と必死こくビールCM、流されるごとに大笑いしている。恋する男女のやることって本人達が真剣であればあるほど、おかしいよね。相原コージの『コージ苑』のテイストね。

■一月某日 No.1200
やや疲れが出ている。誰にって、私に。目がショボショボする。
■一月某日 No.1201
ルー氏、加わり大快調。ルー氏泣く。

ところで占い師って自分をがんがん占って成功すればいいのに、なんで寒い街角に座ってんのよ。

前にテレビで姓名判断の安斎氏が家族旅行の際に見舞われたトラブルについて話していて、司会の小堺氏が占いで回避できなかったのかと突っ込むと、安斎さん、「私のいうことなど家族は聞きません」

■一月某日 No.1202
稽古快調。泣くルー氏にもらい泣きをしてしまう。

ところでNHK対朝日新聞は見ものだな。

■一月某日 No.1203
稽古休み。久しぶりの休みの日、遊静館に自転車がやってくる。

リリー号と名づける。昔飼っていたコッカースパニエル犬の名前。

びゅんびゅん飛ばして近くの自転車店で鍵、ライト、籠をつけてもらい、防犯登録する。びゅんびゅん飛ばして中華屋いってタンメン食べる。

『白いカラス』を見る。ちょっと語り口がねえ。

ところで「ヒロシです」のヒロシのBGMで流れるカンツォーネ風の曲についてご存知だろうか。

1969年のイタリア映画『ガラスの部屋』の主題歌だ。当時大人気だったイケメン、レイモンド・ラヴロック主演の一風変わった恋愛映画で私はドーナツ盤を持っていて、『ジェノサイド』という舞台を思い出す。懐かしい曲だ。

ところで『クリオネ』のなかの安西という男は現在フィストファックが口癖になっているが、私は最近ことあるごとに意味なくキャンペーンなんだよ!とつぶやいている。

稽古場で外村君が演技について質問してきたときも思わず「キャンペーンなんだよ!」と口走ってしまいはっとしたが、なぜか外村、「そうか、そうだったんだ」と納得したかのように立ち去っていった。

■一月某日 No.1204
稽古。外は雪で寒い。
■一月某日 No.1205
稽古。
■一月某日 No.1206
稽古。二回通す。
■一月某日 No.1207
休みの日。神保町で編集会議。

その後、中野の美容室へ。

寒くてくたびれる。

■一月某日 No.1208
稽古後、旧友佐伯一麦の大仏次郎賞受賞祝いの二次会、日比谷に赴く。

佐伯は今回日経に連載していたという『鉄塔家族』で受賞した。受賞パーティーは帝国ホテルだが、案内が来て佐伯がしっかり小説を書き続けていることを知った。

それにしても佐伯は数年前、木山捷平文学賞というのも取っている。シブイ賞を取る男だな、こいつは。

会場のパブには旧知の編集者、新聞記者でいっぱい。

そういうわけで七年ぶりに佐伯に会う。なんかスピーチもさせられる。

優秀だが性格が悪く、嫌われ者なのだが賢いので周囲は実力を認めざるを得ない新潮社の編集者Kともおよそ一年ぶりに会う。Kが隣にきてわいわいしゃべりまくる。

そのKとタクシーに同乗し、三次会の会場四谷の『英』に向かう。

かつて佐伯が三島由紀夫賞を取ったときに祝った場所だ。今日のように大勢人はおらず、私とKと中上健次の三人で佐伯を祝った、というか中上は佐伯をいびりまくっていた。

ここでもKは私の隣でしゃべりまくる。劇団をやめたのだと告げると、まじめに「そいつはよかった、本当によかった」と喜んでくれる。とにかく、ばたばた人を叩きながらしゃべりまくっていてうるさいのなんの。

佐伯の隣に移って小説のことなどしゃべる。

するとKもやってきて、「今度の『鉄塔家族』はよくないが、とにかくダイブツ賞の賞金二百万はよかったよかった。生活助かるだろ」とわいわいいってくる。佐伯は黙ってうなずいている。KはどこまでもKである。

その後、古井氏とスケベな話をしたようなのだが、ここらから記憶が途切れる。

何時に帰ったかも覚えていない。

■一月某日

No.1209

朝日新聞の取材。「今朝日いろいろ大変なんす」と記者氏。

稽古を見て泣く。辛くてではなくて。

■一月某日 No.1210
稽古最終日。

ベニサン近くの香港食堂でたんたん麺食べる。

■二月某日 No.1211
スズナリヘ。

意外に舞台装置が苦戦。

音響の原島さんと人の舞台を見終えた後、楽屋見舞いの一言感想コメントの難しさについて語り合う。柄本明氏は「おもしろかった」というと「これのどこが?」と怒るそうだ。まあまあよかったときと本当によかったときの「おもしろかった」の差異をどうつけるか。「明日にでも打ち切れ」と言いたいときの抑え方などなど。

よくにこやかに帰れば、気に入ったとみなされるそうだが、そんなことはない、本当に感動してしまったときなど誰にも顔を合わさずにとっとと帰って余韻に浸りたいというものだ。

一幕だけ場当り。

■二月某日 No.1212
装置苦戦。ヘルプできたM氏と数年ぶりに会う。

二幕場当り。

予定した時間にゲネプロ始まる。

■二月某日 No.1213
昼間、ゲネプロ。

装置も落ち着き、初日の準備万端。

さて初日。

開幕して数分後、お客さんにはわからなかったろうが、ありえねー!ってことが起こり、客席から転げ落ちそうになる。

これだから舞台はやめられない。

スズナリはスタッフルームがない。ロビー、受付あたりをうろうろしていたいタイプではないので、楽屋に入れてもらっている。男六人でわいわい。

終演後、ロビーで乾杯。

いろんな人とわいわい。

白水社の梅本氏は三月で定年だという。おつかれさまでした!

■二月某日 No.1214
二日目。

小堺、関根という盟友が来場しているせいか、ルー氏がちがち。

終演後、楽屋でルー氏がとちった箇所を物まねしていると、

「川村さん、おれがとちるの毎日楽しんでない?」

「演出家がそんなこと楽しくねーよ」

といった会話などしてわいわい。

ところで新宿で軽くフィルターを噛んで口の端でくわえ煙草をしている小僧がいるが、おめえは特命係長只野仁のつもりかっ!

■二月某日 No.1215
JOUが手伝いにやってきて騒動を起こす。ルー氏のマネージャー高木氏を手伝いの学生と勘違いし、次に素性を知って誰のマネージャーと尋ねて「ルーと小堺です」と答えられたのを『ルート小堺』というタレントだと思う。

ルー氏、いつもとちるところを入念に楽屋で繰り返していたところが、本番でまたとちる。手塚氏大騒ぎ。

ルー氏帰ってきて一言、「おれはくやしい」

今日はマチネ、ソワレ。

夜の回で拍手鳴りやまず、楽屋に戻った俳優諸氏再び舞台に向かう。

夜中、『ER[』を見る。いつもと趣向を変えて一箇所での男女の愛の機微などを織り交ぜ、舞台仕立てのシナリオ。戯曲の教科書のような丹精な出来だが、別の言い方をすれば一番つまらないといえるシナリオの出来だ。アメリカにはこの手の手だれのライターがごろごろいるのだろう。われわれはアメリカの戯曲を何も教科書にする必要などない、と私は常々いっているわけだが。

■二月某日

No.1216

日曜。

俳優諸氏快調。

終演後、楽屋に小田島先生が来られる。

楽屋はわいわいと男だけの部室のようだ。

■二月某日 No.1217
佐伯から葉書が届く。蛙の形のペン立てをお祝いにして、その礼状だ。この置物を何だろうと首を傾げながら眺めている、という文面だ。

だいじょぶかね、こいつ。

ラジオでアルフレッド・ハウゼが死んだと知る。ガキの頃聞いていたな。

舞台は快調。みなきゃ損ですぜ、ダンナ。

ルー氏は「日々鍛錬」と楽屋では一時も台本から目を離さない。伊沢、見習えといい、公演後は是非ルー氏の付き人にと提案するが、いらないと簡単に却下される。では笠木の付き人になるかというと、

「なんでぼくが笠木さんの付き人なんですか」と涙目で訴える。

■二月某日 No.1218
舞台、快調。

デジカメで舞台を撮る。がんがんズームを動かして。

ぐったり疲れる。

終演後、ブラジルから来た友人と飲む。

ちょうど今リオはカーニバルだ。

サンパウロは異常気象で寒いそうだ。

■二月某日 No.1219
怖いこの日がやってきた。サッカー北朝鮮戦だ。三年前、ワールドカップ時の悪夢。人々はテレビの前に釘付けとなって劇場を忘れる。

しかしなんとか埋まった。お客さんひとりひとりに頭を下げたい気分だ。

今日はカメラ据えっぱなしで録画。

楽屋で「意外と日本負けたんじゃねえか」などとしゃべっていたところ、勝ったとの情報がやってくる。

下北沢駅近くで飲む。

■二月某日 No.1220
舞台、快調。

残りわずか。みんな、来てね!

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