彷徨とは精神の自由を表す。

だが、そんなものが可能かどうかはわからない。

ただの散歩であってもかまわない。

目的のない散歩。

癇癪館は遊静舘に改名する。

癇癪は無駄である。

やめた。静かに遊ぶ。

そういった男である。

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■八月某日 No.1051
稽古。人並みに酷暑のため、調子いい日が二日と続かない。睡魔。

恒例の夏の宿題がどどっと送られてくる。

劇作家協会の新人賞の第一次選考の読み。個人の読書の時間が削られるのが難点だ。

でもそう苦痛ではない。とかいっていると、それではと20追加とかされると地獄だから、少なくとも快楽ではないといっておこう。もどきが多すぎる。

アジアカップ、日本優勝。人並みに興奮する。

この試合を巡る日本人の反応に後期資本主義の終焉間近、という言い方ができるかどうかわからないが、なぜなら終演後のビジョンなどないのだから、病理の前衛をひた走る日本の成熟、老成を見る。この老成は悪くはない。

■八月某日 No.1052
公開稽古。

暑い中お足を運んでくれている皆々様に感謝。

夜、K-1ベガス大会を見る。

曙また負ける。すり足で攻めていくといってもなあ、カエルみたいでなあ。どうもまだかみ合う人と出会えていないんだなあ。

■八月某日 No.1053
高田馬場ビッグボックスの古書市をひっかけ、いろいろ買ってしまう。

稽古。眠くなる。

夜、しんみりする。

昼間エッセイでクレイトンを吸ってアイラ島のモルト、ラフロイグを飲むという記述を読んでいたので、ラフロイグが飲みたくなり、15年ものを買って飲む。

■八月某日 No.1054
新橋にてブラジル公演で世話になったアルファインテルの佐藤社長、ユウジさんナツミさんらと打ち上げ。

わいわいと飲む。

■八月某日 No.1055
稽古。サラ・ケインは楽をさせてはくれない。

夜、オリンピック女子サッカー、日本、スウェーデンに勝つ。もう川上直子ちゃんにはチェック入れてるもんね。

■八月某日 No.1056
暑い。

稽古。因果関係のない大量の台詞を相当のスピードで話すので劇団員達は大変だ。

しかし台詞を覚えることと知能とはあまり関係ない。

意味を理解でなくても台詞というものは覚えられる。

私としては劇団員が少数になってやりやすい。

多人数だとそのほとんどがだめなのだから、はなからダメだしを放棄していた。

しっかし、笠木も書いていたが、ホンット男たちは無口で、笠木、小高、伊沢が三人でいるとひたすら黙っていて、そばにいると急に男は黙ってサッポロビールとか叫びそうでおそろしい。

まあ、どうでもいいつまらない話を、他人の迷惑もかえりみずにだらだら垂れ流す哀藤とか坂本よりは数段害がないからいいのだが、役者の処世術としてはどうかとも思うものの、逆にそれが新鮮と見られてプラスに働くということもあるかもしれない。

■八月某日 No.1057
暑い。

なんかいろいろやることがあるのだが、またお絵描きとかし始めちゃって、なんにも進まない。それに人並みに夜中オリンピックみちゃうしさ。

とにかく、みんなヤワラちゃんと呼ぶのはやめようぜ、もう谷でいいじゃないですか、谷で。

稽古。

夜、オリンピック、見る。

■八月某日 No.1058
暑い。

公開稽古。

お客さんがいっぱい来てくれてうれしい。やっぱり神様はこの方々だ。

劇団員の数名、おのが知能の低さを露呈させる。

とにかく大山の夏の公演シリーズはこれで最後だ。

第三エロチカはどこへいくのだろう、なんて芸のない評論家が私について書くときに決まって後半部分で使いそうなフレーズをいってみたりして。

たいてい芸のない人の文章は「川村毅はどこにいくのだろう」とか深遠そうに装って結局何も考えていないことを露呈させるだけのことで終わってしまう。どこにいくのだろうなんて余計なお世話だっちゅうの。でも無視されるのも嫌だから書いてね。別に誰を想定しているわけでもないんですけれど。

■八月某日 No.1059
暑い。

稽古。

帰宅すると遊静館のベランダの天井と物干し竿をかける取手の間になにやら鳥の影があり、どうやら鳩のようなのだが、懐中電灯を当てても布団叩きを振ってもびくともせず、目もくちばしも開けたままで、どうえら死んでいるらしい。変なところで死んでくれてしまったものだ。明日保健所の人に来てもらうかとうんざりする。

夜中、オリンピックの野球にやきもきする。こいつらオランダなんぞに負けて帰ってこれると思うなとテレビの前で怒鳴る。夜中だというのに。

中継は次に男子体操の団体になり真剣に見始めてしまう。日本選手への審査の点数、妙に低すぎじゃねえか。

それにしてもアナウンサーはどうでもいいことばかりいってて「あん馬をするために生まれてきた男」とか、これってただのスポーツ馬鹿に聞こえるし、アナウンスじゃなくて情緒的な応援ばかりしている。

眠くなって四時半頃寝る。

■八月某日 No.1060
起きてベランダを見ると、昨夜と鳩の姿勢が変わっているので、あれと思い近づくと生きてるじゃねえかよ、布団叩きを近づけると飛んでいく。それにしてもあれだけやって起きず、今の時間まで同じところにいるとは、のんきな鳩だ。暑さのせいだろうか。

線香焚いてやって損した。

体操は金をとって野球も結局勝っている。

納涼『おやじギャグ』こども特集の力士の「ロシアの殺し屋、オソロシヤ」というギャグに笑う。私もまた鳩と同様暑さにやられているのだ。

とにかく、みんな何度もしつこいけれど、ヤワラチャンって呼ぶのもうやめようぜ、谷でいいだろ、谷で!

金井美恵子の最新エッセイ集がめっぽうおもしろくて、影響されてしまって知り合いでもない人の悪口をもりもり書きたいのだが、まあやめときましょうね。

あえて今日は自主稽古。間隙をぬって原稿を上げるも、気に入らないので後日全面的に書き直すことにする。

夜、昨日とまた同じところに鳩が寝ている。

■八月某日 No.1061
原稿書き。

稽古。

■八月某日 No.1062
東京スポーツがコラムで水泳2冠の北島になぜかからんでいる。

インタビューでいきなり「チョーきもちいい!」ってこいつオリンピック会場をソープと間違えてんのかってわけで、もっと芸のあることいえってことだが、なかなかいいツッコミだ。この選手のなにかをつかんでいるかのようなからみだ。

卓球愛ちゃんの気合いの声うるせいといおうと思ったが、負けたのでやめておこう。

稽古。

■八月某日 No.1063
永井秀和の『間違いないっ!』カワムラ版のネタをずっと考えているのだが、なかなか思いつかない。暑さのせいだろうか。

夜中、オリンピックとか見てるしさあ。

山田山子からメールが届く。

自分はこれから杉田かおると叶美香、どちらでいったらいいのだろうという内容で脱力し、返信の気もおきず。デヴィ夫人でいいんじゃないのとも思ったが、山子に金があるわけじゃあなし。

夜、花火を見る。

■八月某日 No.1064
正午、打ち合わせ。

稽古。

まあ、みなさんいたいけにがんばってるけど。

夜中女子マラソンを見届ける。

突然だが週末からフランスにいくことになってもうた。

パリから列車でナンシー経由で四時間ほどのポント・デ・ムッソンという村で毎年恒例の劇作家を中心にしたリーディング・フェスティバルにいくためだ。

その後パリに寄ってしばし過ごすつもり。芝居はオフだよといわれているが、ほんとのこというとわたし別に外国で芝居とか見たい人でもないのよ。たまたまやってりゃ観るけど。

二年前パリを一泊で帰ってきた無念さが怨念のようにあってだらだらと過ごそうと思う。

これまで数回いっているが、見るの大変そうなのでルーヴルには一度も足を踏み入れていない。

今回は二日間ばかり費やして見てやろうと思っている。

それと東京で見られないような映画とかやっていないだろうか。まあ、ないか。ほとんど東京で見られるからな。変な特集上映とかやっていないだろうか。

そういうわけで急遽フランス語のテープを取り出して聞き、もうペッラペラ、どんな難解なシンポジウムもオーケー、とか嘘に決まってんだろがっ。

でもカフェ、バー用語は全部勉強した。

遊ぶぜ。

本番中だが劇団員には全員成田まで来てもらい、バンザイで見送ってもらうことになっている。

■八月某日 No.1065
原稿書き。

小雨で涼しいというか寒い。

稽古。

新宿の蕎麦屋で熱燗を頼む。寒さのせいで調子悪し。

■八月某日 No.1066
昼間、がんがん原稿を書く。暑さが戻っている。

銀行でユーロなどを都合する。

夜、稽古。

オリンピック、野球負けやがんの。

今回、サッカーといいソフトボールといいタマモノはだめだな。よかったのはミズモノ、水泳とユカモノ、柔道、レスリング。それにしても浜口京子、これからずっとあのオヤジがひっついてんじゃ大変だな。

そのアニマル浜口だが、テレビカメラを前にして「気合だー気合だー」とやってすぐ素に戻ったときの微妙な間がなんともいえない。

前回に続いてしつこいけれど、北島ってきっと風俗ズキだぞ。実家のお肉屋さんが日暮里だし。

■八月某日 No.1067
ゲネAチーム、Bチームと二回通し、初日。まあまあ。

終演後、わいわい飲む。

遊静館、帰宅後もシンクロなどを見つつ飲みすぎる。

■八月某日 No.1068
マチネ、Bチーム。ソワレAチーム。稽古の段階からわかっていたがAがいい。いい仕上がりともいえないが、比べるとよく見えてしまう。正直いってBチームはどうにか台詞をいっているという感じでピアノの発表会の親御さんの祈りみたいな気分になってくる。そのBチームの初日に評論家の人々、どどっといらしてしまうので、まいった。反省! キャスティングはやはりシングルチームでしかありえない。Bチームはやけくそバージョンで演出変えればよかった。「ヤケクソバージョン」と最初からうたって。

Aではことに伊沢がいい。

しかしなんといっても今回いい味出してるのは受付の吉村と場内整理の宮島だよ! ホントだよっ! まじめにそう思うよ!

今日は『ハムレットクローン』チーム、『クリオネ』ワークショップチームの面々が大挙きているので、わいわいと飲む。

終電前に帰る。俳優という人種と日を超えて飲んではいけない。

さて大山の夏の恒例の公演もこれで終わりだ。いろいろなことが終わる。

そうした段階と時期にいる。新しいことを始める、新しいことが始まる。

私はフランス、ポンテムッソンでリーディング大会に出席し、パリで『クリオネ』を書き始める。

ちょいとかっこつけすぎかな。でもほんとのことなんだもん。

今まであまり書いても話してもないが、実はパリって思い出の地なのだ。二十代の半ばより数回いってるのよ。最初なんかトイレの男女もわからなくて女のほうに堂々と入って朝顔がないのも、パリの男便所とはこうしたものなのだと勝手に解釈して、何度もいくうちにやがて若い子に怒られたりしてる。

80年代のパリってのはまだ圧倒的に英語をしゃべってくれなかった。

モンパルナスのカタコンブとかいって40分近く出られないのでまいったりしてた。

映画監督のジャン・ジャック・ベネックスの事務所にいって対談とかもした。これは結局発表されていないもので、次回この彷徨亭の特別篇で公開しようと思う。二十いくつの私である。乞うご期待!

そういうわけで私には今も昔もまだまだ人に公開していないことがやまほどあるのよ。別にだからどうだってわけじゃないけど、まあ、聞きたい人は餞別持ってくるように。

テレビの寿司太郎のCMの曲が耳にこびりついて離れない。

オベントオベント、スシタロオオー! ワベントオベントスシタロオオー!

別にモー娘が好きなわけではない。あしからず。

■九月某日 No.1069
エールフランス276便で帰国。

そういうわけで帰ってきた。

帰りの機内では『ハリポタ』、『シュレック2』、トムとジェリー、ドナルド・ダックを見る。

あとの二作のアニメ、真剣に見ると予想外におもしろい。

朝について一日ぼーっとしたまま過ごす。帰国してこういう時間というのが存外いい。

ルーヴルとオルセーを共に二日間を費やしてほぼ制覇した。それらになれた目で書斎のわが油絵を見ると、がっくり。って当たり前のことよね。私はまだ色を無頓着に使い過ぎている。

セザンヌの部屋でじっとしていて、収穫はあとマネ、クールベ、ドラクロワ、ラ・トゥールなど。

印象派の周辺と前後を再び、及びフランス語を勉強しようと決意して帰ってきたのだが。

スカイライナーを下りて日暮里から山手線に乗ったとき、正面のじいさんがタッパーから南京豆を取り出して食べている。前歯がないので奥に押し込み、なにやら皮だかかけらを取り出しては戻し、またそのかけらを食べたりとかしてて目が離せない。目を泳がせながらしかも真剣にやめようとしない。どうして電車で食べなければならないのかわからない。その横には「負けじ魂」とプリントされた若者が思いつめた顔つきをして一点を見つめている。東京って不思議。

■九月某日 No.1070
だらだらしつつも溜まっていた原稿三本上げる。

パリと同じ気温だが、東京は湿気がきびしい。

■九月某日 No.1071
執筆開始。
■九月某日 No.1072
サンシャイン水族館でクリオネを見る。

帰り「タベルナ」でまぐろのカルパッチョ、イカ墨パスタ、真鯛のオーブン焼き、子牛のタベルナ風を食べ、グラッパでしめる。

■九月某日 No.1073
『カジュアリティーズ』、『NOVO/ノボ』、『ベーゼ・モア』とかを見て、『笑点』を見る。
■九月某日 No.1074
暑い。やはり時差ぼけで夜目が冴えて酒を飲みすぎる。

昼間エンジンがかからない。

執筆。

そういうわけでフランス旅行のことは来週。けっこう書くの大変なんだ。写真つきにしようかな。

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