彷徨とは精神の自由を表す。
だが、そんなものが可能かどうかはわからない。
ただの散歩であってもかまわない。
目的のない散歩。
癇癪館は遊静舘に改名する。
癇癪は無駄である。
やめた。静かに遊ぶ。
そういった男である。

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■三月某日 No.921
8:30起床。朝食もまたまずい。

周囲を散策。快晴。

13:00チェックアウト。

14:00ミーティング。

15:00終えて、テレビ塔に行き、登って景色を見ようとするも、天候のせいで上がれず。

ブラジリアから再びサンパウロへ。空港のスシバーで寿司とビールをひっかける。

この空港は古い駅のような風情である。ひとり用の大きなクッション椅子でまどろむ。この型の椅子が五個ほどある。

0:00発。十時間後、ロス着。行きと同様わざわざアメリカの入国手続きをしなければならない。免税でシガー買う。

さてさらに11時間半の飛行である。

機内映画で『DOOR TO DOOR』、『シモーヌ』を見る。

ふたりほど日本人の病人が出た模様。客のなかで医者はいないかというアナウンスが流れる。ひとりの方は私の後方にいた団体のなかの初老の男性である。確かに旅行の後のこの24時間飛行は体にこたえるだろう。

いろいろ物を考える。

■三月某日 No.922
すっかりブラジル、殊にサンパウロが気に入ってしまった。都会のジャングルというある意味古い呼び名が似合いそうな、洗練された野蛮に彩られた都市。しかも美人が多く、これまでいった国のなかではルーマニアと並ぶ美人率の高さだ。赤褐色の肌に網膜をやられてしまった。

私も巷間ブラジル好きの名称、ブラキチの仲間入りをこのまま果たしてしまうのだろうか。

野生と知性の共存。どこかすべてが粋だ。強盗ひとりをとってもセンスが感じられるのだ。

ところで東京スポーツによれば勝新太郎はかつて初めての海外であるアメリカにいったとき、レストランで「パン、プリーズ」といってまるで通じなくて頭にきたらしい。それでやっとの思いでいろいろ注文した後、ウエイトレスが「エニシング・エルス?」と聞いてきたので「オーケー、プリーズ」と答えたところ、いつまで経ってもそのエニシング・エルスが出てこないので相当頭にきたということだ。デザートの名前と思っていたということだ。

そういうわけでブラジルへいこう、ブラジルヘ!

ところで京都の学生のあいだでこの彷徨亭のどこが嘘であるかを当てるという暇つぶしが流行っているということだ。

そういうわけで今回はそのスペシャルをやってやろう。

特番『彷徨亭・どれがウソホント!?』

私は、

実は資産家で大金持ちである。

実は大借金をしていて大貧乏である。

ナイジェリアに隠し子がいるらしい。

実は馬鹿だ。

短気は装っているだけで実は粘り強い。

おおらかさを強調しているが実は細かい。

神楽坂に芸妓の愛人がいる。

実はバレンタインでは一枚しかチョコをもらっていない。

実は暇だ。

実は健康に気を遣っている。

実はアングラ及び実験芝居が嫌いだ。

実は便秘だ。

さてこのなかでどれが嘘でどれが真実か、正解者は一緒にブラジルに行けるという特典があるぞ、さあ、みんなどしどし応募しよう!

そういうわけでサンパウロではNHKが見られるので鳥インフルエンザのことは知っていたが、帰国して驚いたのは若村麻由美だよ、若村麻由美。

■三月某日 No.923
起きたらなんと午後の三時半。

慌てて起きて、朝日カルチャーセンターへ。

『セルロイド・クローゼット』を見る。

長嶋氏、脳梗塞で倒れるの報。

サッカー予選、日本vsUAE戦を見て興奮する。

■三月某日

No.924

朝、全然起きられない。ほうっとけばほんと一日中寝ている勢い。

寒く、気温の差にやられている。

夜、ブラジルをじわじわと思い出しながら酒を飲む。

はっきりいって今なにもやる気がしない。

■三月某日

No.925

五月の新作公演『クリオネ』のためのオーディションを日芸でやる。

『ロード・オブ・ザ・リング』第一部をビデオで見る。第三部の予告編を見て、これでほぼなんか全部見た気がする。

■三月某日 No.926
数日遅れて世田谷のアジア企画に参加。

鐘下氏、よく来たなという顔つきで出迎える。

ワークショップでこしらえた一部を見て色々意見を言う。

トノ、覚えたての日本語をしきりに私に披露する。

「扉がしまりまーす」と「上へまいりまーす」

稽古後、トノ、吸殻をゴミ箱に捨ててえしさんに怒られ、一瞬にしてしょんぼりする。

夜、みんなで『ファウスト』を見る。トノはしょんぼりしたまま。

■三月某日 No.927
十時開始のため、早起き。

ワークショップ参加。鐘下と共演する。

私もひさしぶりに役を演じている。

ぐったり疲れる。

長嶋氏は滅多に疲れたと言わなかったとか疲れた素振りを見せなかったというが、それが健康によくなかったのではないか。私は疲れたときは、実質以上に疲れたをのたまい、それでストレスを解消する。

稽古場に柄本明氏がひょっこり顔を出す。別に用があったわけではない。今年氏は公演でルーマニアに行くのだというので、美人が多いと講釈を垂れる。氏はポーランドが美人が多かったというので、いやなんといってもルーマニアとブラジルだとさらに講釈を垂れると、いいことを聞いたと感じ入ってくれて帰る。

夜、高田馬場の『鳥やす』にいく。鳥インフルエンザでさぞかし大変だろうと思っていたのだが、なんと店内は満席でテーブルが空くのを待っているグループもおり、さらに次々とお客さんがやってくる。素晴らしい光景だ。

『白い巨塔』を見る。実にメロの正道をやってくれる。主人公の死だ。

■三月某日 No.928
早起き。三茶へ。

やや二日酔いでまったく元気なし。

元気ないままリハーサルを続ける。

池尻大橋で間違えて降りてしまったとジョシュが遅れてくる。私もこれまで何度もやっている。渋谷・池尻間はやや長いから考え事をしていると錯覚して降りてしまうのだ。

私のように完璧ではないにせよ、少しは英語ができる者にとって通訳は時に理解したことを繰り返されるのでたまにいらいらする。といっても仕方のないことなのだが。疲れているのだ。私のみならず、メンバー全員に疲れが見える。

去年のワークショップでは疲れてくるのは通訳さんも同様で私が話した英語を私に日本語で訳して聞かせたりということがあり、「はい、それは私がいいました」なんてことを数回繰り返したりとそれで爆笑になり、場がなごんだものだった。

自分の英語力がどれくらいなものかわからなくなる。一切クリアに理解できる時があると思えば、お手上げの時もある。

たまにさぼって昼寝などしつつ過ごす。

ぐったりと疲れる。

それでも終了後、ユーロで『パリ・ルーヴル美術館の秘密』を見る。疲れのせいか途中で寝入ってしまいそうなのを必死で耐え、うつらうつらしたまま見終える。

じっくり眠る。

■三月某日 No.929
元気よく目覚める。

三茶へ。アジア企画は続くよ、どこまでも。

場面作り。われわれはグループCといってジョシュ、ジョー、ディンドン、ハービーそして私というクレージー・グループである。ハレーシュという紳士の組の鐘下がうらやましい。

ジョシュはうるさい。

誰とはばらさないが、休憩の折り、渋谷のヘルスのシステムを真剣に聞きたがる者一名あり。男ってやーね。

明日のプレゼンに向けて稽古が続く。私、ジョシュに怒り、怒鳴る。俳優をやっている私に対してわかりきっている指示がうるさいのだ。

とかやいのやいのありつつ無事終わる。

ひさしぶりに台詞をしゃべって演じ、体が火照っている。

■三月某日

No.930

11時からグループCのプレゼン。同じ世田谷パブリックの子供向けのワークショップに参加している中高生達が見に来る。他にたまたま滞在している外国のプロデューサー達。

無事終わる。中高生達、大いに笑い、実に反応がいい。

トラムでフランスの作家のリーディングを見る。

アジアの話し合い。明日はオフである。

東京駅でビール、パスタなどを食べ、京都へ。夜着。

■三月某日 No.931
京都の大学でヒアリング。

その後、時間ができたので北野天満宮で梅を見る。高橋尚子、アテネ行き落選の報を聞く。

帰京。

■三月某日 No.932
アジア再開。

昼休み、コックマンのおとうさんが亡くなったという知らせが入る。バスの運転手をやっていて事故らしいということ。

コックマンは明日急遽KLに帰ることになった。

今朝、コックマンと渋谷を歩いていたナムロンはコックマンにカラスが直撃してきたといい、あれはサインだったのだという。さらに、「おれはオヤジが死んだといっても帰らない」などといっている。

コックマン自身は、昨日の夜はなぜか寝苦しかったと語る。

しかしコックマン、気丈に議論に参加する。

グループCでは、日曜のトラムでのプレゼンに向けて、ジョシュ、ディンドンのふたりvsジョー、私という構造で激しく対立する。

夜、第三エロチカの新人オーディション。

「きゃんどる」で夕食。牡蠣などを食べる。

■三月某日 No.933
鐘下、ハレーシュ組に私もキャスティングされているので稽古。

休憩の折り、ハレーシュが鐘下に訳してくれというので、くたびれてぼんやりしているところ、適当に「演出家として何考えてんだだってよ」というと、鐘下がまたごちょごちょ訳すのに面倒なことをいうので、仕方がないので通訳を呼ぶと、ハレーシュの質問自体が私が訳したものとは違った、「演出家として自分が思い描いていたことと近づいているか」ということだった。

自分の通訳のいい加減さと、「何考えてんだ」という誤訳の質問を受けたときの呆然とした顔つきの鐘下君の顔が忘れられず、しばし笑いが止まらなくなる。

夜、「鳥やす」に寄る。

■三月某日 No.934
稽古と話し合い。

原稿のゲラもらう。

『白い巨塔』最終回。多くの連続テレビがそうであるように、やはり最終回はつまらない。それにしても野望に燃えた田舎者という財前五郎にまさか感情移入していたわけでもなかろうに、人気の理由はなんだったのだろう。見終わってみると本当に古臭いドラマである。

深夜、ゲラを読む。

■三月某日 No.935
11時、プレゼン。役者をやる。

夜、『赤目四十六瀧心中未遂』を見る。尼崎が舞台の前半はさまざまな端役の強烈な存在感のせいもあって実におもしろい。片足をひきずって娼婦役で出ている沖山秀子にはびっくりした。もう亡くなっているものと思っていた。

しかし後半の道行きになるとおもしろくない。が、全体を通して何か映画への妄執、執念のようなものが画面に満ち溢れていて、いい、おもしろい。生きていたのか、荒戸源次郎。

『台南ターミー』で食事。

■三月某日 No.936
11時からトラムで舞台稽古。

夜、三茶で中華を食べる。

■三月某日 No.937
11時から2時までゲネ。

もう早く飯食って本番に備えたいのにみんなでぐちゃぐちゃ休憩時間を何分にするかでもめてて、私、キレ寸前。日本語で「さっさとしろよ、まったくぐだぐだしやがってよお」というと意味がわかったのか、本人も同感であるのか、ナムロンが私を見て笑う。

ワンタンメンを食べる。

16時、本番。滞りなし。

トノを楽屋の畳に座らせ、「おまえはよくやった」と日本語でいってやる。どういう意味なのかと聞くので、こうこうこうだと教えると早速覚え、楽屋に戻ってきた鐘下に「タツオサン、おまえはよくやった」鐘下、苦笑い。

シンポジウム。途中睡魔に襲われ、数秒寝入ってしまう。

『魚待夢』で打ち上げ。トノ、いろいろな日本人に「おまえはよくやった」を連発。

■三月某日 No.938
正午より話し合いなのだが、昨日の酒が残っているせいで、いらいらする。

18時半、終了!若者達、「フリーダム!」と大声、私も「終わったあー!」と叫ぶ。松井氏、微妙な顔つき。そう、なにも強制されてやっているわけではないのだ。とはいうものの、長時間の稽古、議論にはほとほと疲れた。

次回は10月、マニラで決定したが、ここではさらに突っ込んだ議論が為される予定であり、地獄の予感である。

それにしてもマニラか。また初めての土地だ。不思議な人生だ。

小説のゲラを三茶まで取りに来てもらって渡す。久々に書いた小説の作業がこれで終了。来月発売の『すばる』に掲載予定。

■三月某日 No.939
雨で寒い。

京橋のセゾン事務所で稽古場助成の通知書をいただく。

「つばめグリル」で食事。

体の芯が疲れており、よろよろと帰る。

■三月某日

No.940

終日原稿書き。

このように言葉を紡いでいくとやっと普通の生活に戻ったと実感する。

ブラジル帰りからすぐにアジア企画にシフトしてまるでどの国にいるかわからないまま時を過ごした。急に睡魔に襲われるのは時差ボケか疲れのせいなのかわからず、鼻水、くしゃみ、頭のボッーは花粉症なのか風邪なのかもわからないまま。

いかりや長介の告別式。ぱたぱたといろいろな人が逝去。潮の満ち引きというものがある気がする。

『噂の真相』の休刊特別号はおもしろい。実はかつて私もこの雑誌にいろいろ世話になった。二十代の頃、初めて書かれた記事はまったくのデタラメだった。後で知り合いのプロデューサーが私への悪意をこめて持ち込んだと知った。ページ隅の一行情報は正確だった。書かれて一人前なのだ。アラーキーの写真にも出たな。エロネタではないよ。

十代の頃、編集長岡留氏がかかわっていた『マスコミひょうろん』からの愛読者であり、『噂の真相』創刊号もたぶん押入れを探せばあるだろう。しかし最近手にしなくなっていたのは、芸能人、文化人の色恋沙汰の暴露記事が多くなっていて、それを暴くことにどういった意味があるのだ、誰が誰とやろうが勝手じゃないかと嫌な気分がすることが多かったのだが、今回の特別号でこれは副編集長氏のテイストなのだと知った。

しっかし、ビートたけしの周辺に関する記事は迫力がありおもしろかった。たけしの闇をまざまざと知らされた。あれは暴露記事の傑作で渾身の取材だったな。

デスクの神林さんとは、20代の折り、小説家連中と飲んだこともあった。去年ばったり飲み屋で会ったが、貫禄だった。神林さん、おつかれさん!

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